子育ての秘訣

親の力向上委員会

こどもの生きる力を伸ばすために

連載7  子どもへの愛を深める法(子どもは下から見ろ!)

静岡県浜松市在住の教育評論家 はやし浩司先生に子育ての極意について寄稿していただきました。

はやし浩司 氏
はやし浩司 氏

親が子どもを許して忘れるとき

●苦労のない子育てはない

子育てには苦労はつきもの。苦労を恐れてはいけない。その苦労が親を育てる。親が子ども を育てるのではない。子どもが親を育てる。

よく「育自」という言葉を使って、「子育てとは自分を育てること」と言う人がいる。まちがっては いないが、しかし子育てはそんな甘いものではない。親は子育てをしながら、それこそ幾多の 山や谷を越え、「子どもを産んだ親」から、「真の親」へと、いやおうなしに育てられる。

たとえばはじめて幼稚園へ子どもを連れてくるような親は、確かに若くてきれいだが、どこか ツンツンとしている。どこか軽い(失礼!)。バスの運転手さんや炊事室のおばさんにだと、あ いさつすらしない。しかしそんな親でも、子どもが幼稚園を卒園するころには、ちょうど稲穂が 実って頭をさげるように、姿勢が低くなる。人間味ができてくる。

●子どもは下からみる

賢明な人は、ふつうの価値を、それをなくす前に気づく。そうでない人は、それをなくしてから 気づく。健康しかり、生活しかり、そして子どものよさも、またしかり。

私には三人の息子がいるが、そのうちの二人を、あやうく海でなくすところだった。とくに二男 は、助かったのはまさに奇跡中の奇跡。あの浜名湖という広い海のまん中で、しかもほとんど 人のいない海のまん中で、一人だけ魚を釣っている人がいた。あとで話を聞くと、国体の元水 泳選手だったという。

私たちはそのとき、湖上に舟を浮かべて、昼寝をしていた。子どもたちは近くの浅瀬で遊んで いるものとばかり思っていた。が、三歳になったばかりの三男が、「お兄ちゃんがいない!」と 叫んだとき、見ると上の二人の息子たちが流れにのまれるところだった。私は海に飛び込み、 何とか長男は助けたが、二男はもう海の中に沈むところだった。

私は舟にもどり、懸命にいかりをたぐろうとしたが、ロープが長くのびてしまっていて、それも できなかった。そのときだった。「もうダメだア」と思って振り返ると、その元水泳選手という人 が、海から二男を助け出すところだった。

●「こいつは生きているだけでいい」親が子どもを許して忘れるとき

以後、二男については、問題が起きるたびに、「こいつは生きているだけでいい」と思いなお すことで、私はその問題を乗り越えることができた。花粉症がひどくて、不登校を繰り返したと きも、受験勉強そっちのけで作曲ばかりしていたときも、それぞれ、「生きているだけでいい」と 思いなおすことで、乗り越えることができた。

昔の人は、いつも、こう言っていた。『上見てキリなし。下見てキリなし』と。人というのは、上 ばかりみていると、いつまでたっても安穏とした生活はやってこないということだが、子育てで行 きづまったら、「下」から見る。「下」を見ろというのではない。下から見る。「生きている」という 原点から子どもを見る。そうするとあらゆる問題が解決するから不思議である。

●子育ては許して忘れる

子育てはまさに「許して忘れる」の連続。昔、学生時代、私が人間関係のことで悩んでいる と、オーストラリアの友人がいつもこう言った。「ヒロシ、許して忘れろ」(※)と。

英語では「Forgive and Forget」という。この「フォ・ギブ(許す)」という単語は、「与えるため」と も訳せる。同じように「フォ・ゲッツ(忘れる)」は、「得るため」とも訳せる。しかし何を与えるため に許し、何を得るために忘れるのか。私は心のどこかで、この言葉の意味をずっと考えていた ように思う。が、ある日。その意味がわかった。

私が自分の息子のことで思い悩んでいるときのこと。そのときだ。この言葉が頭を横切った。 「どうしようもないではないか。どう転んだところで、お前の子どもはお前の子どもではないか。 許して忘れてしまえ」と。

つまり「許して忘れる」ということは、「子どもに愛を与えるために許し、子どもから愛を得るた めに忘れろ」ということになる。そしてその深さ、つまりどこまで子どもを許し、忘れるかで、親の 愛の深さが決まる。

もちろん許して忘れるということは、子どもに好き勝手なことをさせろということではない。子ど もの言いなりになるということでもない。許して忘れるということは、子どもを受け入れ、子ども をあるがままに認めるということ。子どもの苦しみや悲しみを自分のものとして受け入れ、仮に 問題があったとしても、その問題を自分のものとして認めるということをいう。

難しい話はさておき、もし子育てをしていて、行きづまりを感じたら、子どもは「生きている」と いう原点から見る。が、それでも袋小路に入ってしまったら、この言葉を思い出してみてほし い。許して忘れる。それだけであなたの心は、ずっと軽くなるはずである。

※……聖書の中の言葉だというが、私は確認していない。

羊(2010/5/27)

しつけは親子の信頼関係から   あいさつは親がお手本を見せる

経歴

金沢大学法文学部法学科卒
第2回日韓UNESCO交換学生、日豪経済委員会給費留学生
(正田英三郎氏・人物交流委員長)として
オーストラリア・メルボルン大学ロースクール研究生
(ブレナン副学部長に師事)
三井物産大阪支店・ニット部輸出課勤務
幼稚園講師(7年間)
BW子どもクラブ主宰(研究・実践教室)
現在、幼児教育評論家、教育評論家、子育てアドバイザー
はやし浩司のホームページ

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