子育ての秘訣

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連載14 飛べなくなったキキは、何故飛べるようになったのか(後編)

フリーアナウンサーで認定心理士の阪田 陽子さんのブログ転載第2弾です。

阪田 陽子 氏
阪田 陽子 氏

魔女の宅急便から学ぶ発達心理学

本日後編は、ウルスラの名言とアイデンティティの確立です。

ウルスラは、「如何にアイデンティティを確立するか」自分の経験を語ることによってキキに教えてくれたのです。

そして「悩んだ時こそ、自分を見つめるとき。自分の才能ってなんだか、考えてごらん」そう語りかけることで、飛べなくなったキキに飛ぶヒントを与えたのです。

ウルスラが就寝前、語り始めます。
「私さ、キキくらいの時に絵描きになろうって決めたの。絵描くの楽しくってさ、寝るのが惜しいくらいだったんだよ。それがね、ある日、全然描けなくなっちゃった。描いても描いても気に入らないの。それまでの絵が、誰かの真似だってわかったんだよ。どこかで見たことがあるってね…自分の絵を描かなきゃって」

小学校高学年から中・高校生の時期

今までの体験・知識をもとに抽象的な思考ができるようになって「自分とは何か」について探ろうとし始めます。これが「アイデンティティの確立」と呼ばれるものなのですが、社会に出た時に「自分らしい自己意識」を中心に生きていくための、重要な思考作業なんですね。

で、小学校低学年くらいまで自分の成長の規範は、親や先生という「大人」なのですが、小学校高学年から中・高校生になると、その規範が等身大の存在である友人や同世代の人間へと移ります。

特に、親に対しては「第二反抗期」と言われるように、今まで「守ってきてくれていた」という意識が「束縛されている」「価値を押し付けられている」と感じるようになって、とにかく親を排除して、自分にぴったりの「本当の自分(アイデンティティ)を確立したい」と思うようになります。

親が「これがいい」と言っても「それはお母さんの考えでしょ!私はこうしたい。」というのは、まさにそれ。家族という安全圏から抜け出して「自分を試したい」という一種の冒険、自己探索の始まりなのですね。

で、ウルスラの場合は親からの束縛があったわけではないのですが(描かれていないだけで、実は束縛から抜け出して森に住んでいるのかもしれませんが)それでも「これは自分ではない」という真実に突然目覚めました。

理想の世界に生きていたところに現実が同居し始め、更にそのギャップに気付き「今までの自分の絵は誰かの真似だった、本当の自分を探さなければ」と焦ったわけです。

この「悩んで行う自分探し」こそが、アイデンティティ確立への重要なステップと言えます。出る杭は打たれる、という日本社会においては「真似」くらいの方がホッとできる環境なのかもしれませんが、そんな均一的な環境にばかり子供をおいては「自分らしい生き方」が解らないまま成長してしまいます。

就職しない・できないお子様の中には、このアイデンティティーが未確立な方が多い傾向にあるのは、ご納得頂けるでしょう。

昔から「反抗期の度合いが強いほど、将来出世する」と言われていますが、それは、自分をよく研究し、誰の真似でもない人生を探す作業を十分行ってきているからなのです。そして、悩むことによって、その状況をどう打破すれば良いのかという術を身につけているんですね。

反抗期は「逆らっている」ように見えますが、実は真の自分を見つけたいのに見つけられない「イライラ感」や、言い知れぬ「不安感」の表れなのです。

一生懸命もがいているのですから、スルーせず、子供を抑えつけようとせず、ただ子供の言いなりにならず毅然と、そして優しく受け止める必要があるのですね…

ウルスラも、描いても描いても気に入らなかった時期…
どんな風に周りにあたったり、悩んだりしたんでしょうね…

さて。ウルスラのそのセリフの後に、キキは続けます。

「苦しかった?」

「それは今も同じ。でもね、そのあと、少し前より絵を描くってこと、わかったみたい」

そう、こうやって、皆少しずつ成長するんだよ、答えがはっきりわかるわけじゃないけど、何となくわかって行く、それが人生なんじゃないの?ということを伝えてあげているんですね。

ゆっくりでいいのです。でも、少しずつ、自分で答えを探していく…
明確でなくて不安、しかし、それが「成長」「発達」と言えるのです。

更にウルスラは言います。

「魔法ってさ、呪文を唱えるわけじゃないんだね」

「うん、血で飛ぶんだって」

「魔女の血か…いいね、私、そういうの、好きよ。魔女の血、絵描きの血、パン職人の血… 神様か誰かがくれた力なんだよね。おかげで苦労もするけどさ」

そう、誰かの能力が羨ましかったりします。でも、自分には、人にはない才能・パワーがあるはずなのです。

それが、ウルスラやキキのように、見えている人は見えている人なりに、そして「私って平凡の極み」と思っている、才能が見えていない人もそれなりに、その才能ゆえに苦労するものなのです。

自信を回復して再び飛びたてるそしてその苦労こそが人間を成長させてくれる…

苦しいのは今も同じ、と言ったウルスラの言葉は親になってもまだ苦労している私たちにも言えることで、死ぬまで苦労するもの、それが「成長」と言えるでしょう。

キキが続けました。

「私、魔法って何か、考えたこともなかったの。修行なんて古くさいシキタリだって思ってた…

今日、あなたがきてくれて、とても嬉しかったの。私ひとりじゃ、ただ、じたばたしてただけだわ。」

そう、生きるってなんだろう、私の力ってなんだろう…

余りにあたりまえすぎて今まで気づいていなかったことに気付いたキキ。それは、脈々と続くシキタリの中に、気付かせるヒントがあったと、初めて理解したのですね。

魔女の一族は、いわゆる反抗期になる時期、アイデンティティの確立に必要な時期になると古いシキタリ=修行に出るシステムがあって明確なのですが、私たちには「受験」「就職活動」がそれにあたるかもしれません。

勉強するってなんだろうとか、就職するにあたって、自分の才能ってなんだろうと考える…

「悩んだ今こそ、自分の血=才能ってなんなのか、考えてごらん」そういうメッセージが込められている、ウルスラの言葉…

映像ではたったの2〜3分の出来事ですが、アイデンティティ確立へのヒントが凝縮されている、素晴らしい名言と言えるのではないでしょうか。

このように、自分ひとりで悩んでいたらじたばたするだけで解決できなかった問題を抱えていたキキ。人生のモデル「友人」ウルスラの言葉のおかげで精神的成長を果たし、再び飛べるようになったといえるでしょう。

これくらいの時期になると、親ではなく、等身大モデルの言葉のほうが受け入れやすい、ということも見逃せませんね。

「飛ぶ」ということと「アイデンティティの確立」が非常に違和感なく表現されている「魔女の宅急便」

是非、もう一度、じっくりご覧になってみて下さい!

羊(2011/2/15)

飛べなくなったキキ(1)   親子で群れることによる悪影響

経歴

NPO法人インテグラルカウンセリングスクール理事
フリーアナウンサー
NHK総合「ニュースウォッチナイン」(月〜金9:00PM〜)ニュースリーダー
認定心理士
傾聴カウンセラー
箱庭療法士
エグゼクティブコーチ
ファイナンシャルプランナー
EQプロファイラー
ブログ:受験生の親のための「子供のやる気を引き出す」講座

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