子育ての秘訣

この人に聞く 連載第八回

人生の先輩の考える子育てとは

高崎利子 氏
高崎利子 氏

子どもに対して家庭で出来ること

Q.子どもに対して家庭で出来ること。また、高崎先生がやってこられたことを教えて下さい

 私たちの教室では、体操と造形を中心に、子ども達に活動してもらっています。子ども達が心置きなく外で元気に遊べれば、又、異年齢集団が形成される中に加わることができたなら、何も教室でわざわざ体操をする必要は無いかも知れません。

造形も、お母さん達にたくさんのアイディアがあって、様々な素材・用具を子どもに提供出来れば、教室でする必要も無いかも知れません。

最近では、交通事情の悪化・事件に巻き込まれる等の心配で、お母さん方が子どもを一人で外に出すことが不可能と感じるようになっています。

三つ子の魂百まで異年齢の集団も、都会では姿を消して久しい気がします。

造形活動は苦手、というお母さん方が多く、幼児に造形を与える難しさは、専門性が要求されるのかも知れません。50年以上昔に、私も造形教室に通ったくらいですから、今に始まったことではない?

 質問に「家庭で出来ること」とありますが、幼児について大方のことは家庭でやるべきことだと思います。

どうしても出来ないことは、集団を味わうこと。集団内でのルールを学ぶことでしょう。

「家庭で出来ること」という質問の裏には、教育をあれこれ外注できるけれど、その他に何か家ですることは無いかと云うような雰囲気が潜んでいるように感じます。

 私たちが幼児と相対していて一番困る子どもは、言葉を通しての理解の薄い子どもです。子どもそれぞれに個体差・月齢差があるのは勿論ですが、それだけでは説明できない意思疎通不可能状態の子どもがいます。

そうした子どもの育つ土壌に、子どもの感覚を理解する、子どもの立場に立って理解の困難を推測する、と云った対応に気付かないお母さんが増えているように感じます。

養育者に言葉かけの気遣いが有るか無しかで、子どもの言語獲得には差が でるように思います。

やたらに難しい単語を並べて、長いフレーズで幼い子どもに注意をしても、子どもの耳にはなかなか届きません。子どもが要求を総て話終わらないうちに話の後半を取り上げて理解してしまうのも困ります。方や、子どもと過ごすのに無口でも、子どもには言葉が届きません。

では外注ですか?

既に物事を習おうという体制ができている年齢に達していれば、ことばを習うことも可能でしょう。しかし幼児です。幼児の学習には、必ず実感の伴った体験が不可欠です。

発語間近かの幼児はりんごを見ておいしそうだなーと思った時に、「これはリンゴだね」「リンゴだよ、リンゴ」と、何度も語りかけてもらってやっと物には名前があることを学びます。

その後、単語が二語文になり、三語文になり、その後徐々に自分の主張や言い訳を説明できるようになっていきますが、それも、実感と欲求が伴わなければならず、そしてお母さんという手強い聞き手が立ちはだかってはじめて実現することです。簡単に要求を通してくれるお母さんとの間には、なかなか複雑な話し合いは成り立ちません。

言語はこのような段階を踏んで発達していくのであって、親と子の関係がうまく噛み合わないと、一方的な叱責と一方的な主張で終わってしまいます。

造形活動には導入の説明が不可欠です。

小さい子どもにはなるべく平易な言葉で丁寧に説明するようにしていますが、初めは何が起こるのかとワクワクしていても、話が分からない子は話を聞くのがだんだん面倒になって、興味を失って席を立ったりします。

私たちが子どもと付き合う週に1〜2日のその中の1時間余りは、言語力を引き上げるのに十分な時間とは云えません。

 日常の生活の中で、子どもの言語力を引き上げていくのは中々根気のいる仕事です。勿論仕事として向き合う必要はありませんが、きめ細かく繰り返し会話していく必要があります。

少しずつ変化していく子どもの話ぶりに気がつき、興味深く思う気持ちがあれば、苦労とも思わずに済むことでしょうが。

 長じて小学生ともなれば、屁理屈も上手になり親子喧嘩も華々しくなっていきます。私の実感ではこの親子の口喧嘩が、言葉を縦横に駆使する力を付けるよい稽古の場所になるように思います。口喧嘩というと余り良い印象ではありませんが、ディベートと云えば格好良いかな?

これも、いい加減根が尽きてもう勝手にすれば! と投げ出してしまえば それまでです。どこまでも付き合うこと。親を踏み台にして成長していって欲しいと願うのみです。

 「家庭で出来ること」の答えとしてははなはだ漠然と聞こえる内容かも知れませんが、でもこうした取り組みが成長の根幹となるものです。こうした根幹を持たずして何を積んでも、労が多いと思います。

そして主に「言語力」を全面に出して話しているように聴こえると思いますが、言語発達は幼児が人との関わりの全てから生きる術を学んでいく上での手段であって、その取り組みを通して様々なことを学んでいくということを理解して下さい。

 「家で子どもに仕掛けた刺激」はいくつか思い出すことが出来ます。次はそれを書きたいと思います。

鼠(2010/12/27)

生年

昭和26年生まれ

出身地

東京都

略歴

小学校から高校までを、お茶の水女子大学附属で学ぶ
美大を経て、新卒で私立小学校の美術教師を経験
結婚を機にアメリカ(スタンフォード・ハーバード)に
5年間生活
帰国後、昭和61年に幼児教室パル・クリエイション設立
今年で25年目
娘二人、それぞれの娘に男女の孫が一人ずつ
平成19年より、お茶の水女子大学附属高等学校同窓会
「作楽会」の会長職

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